TITLE:空間オブジェとしての椅子

 日本では椅子やソファーというのは「座りやすい」という事が第一義に考えられていて、座り心地の悪い椅子やソファーは、それだけで市場から排除されてしまうことがある。
 しかし、椅子やソファーというのは「座る」という機能だけでなく、空間に置くことによって、空間そのものの空気感さえも変えてしまうという機能が、むしろ「座る」という機能よりも大切なのかもしれない。つまりインテリアとしての家具という側面からの家具の価値基準から考えると、家具も一つのアートとて捉える事が出来る。

 最近、1億6千万円で落札された「ラウンジ・チェアー」がある。
 ロッキード・チェアーとか、ロッキード・ラウンジ・チェアーと呼ばれるのがそれで、アルミをハンドメイドで叩いて、折り曲げて、リベットを打ち込んで製作されたそうだ。世界に一台しかなく、現在ではもう製作は不可能だそうで、それが1億6千万という価格の所以かもしれない。
 それにして、椅子が1億6千万とは、ちょと、、というか、、かなり驚く。
 デザイナーはマーク・ニューソン、、プロデューサーは日本人の元IDEEの代表だった黒崎さん。日本人がこういった物造りに携わったというのは、なんか同じ日本人として誇らしいと思う。
 でも、黒崎さんがこのローキード・チェアーをプロデュースしたのだけど、結局は日本のマーケットはそれを理解する事は出来なかったようで、200万程度の価格で外国に渡ったそうだ。黒崎さんのような、こういった天才的な人間が出現しても、日本のインテリア・マーケットはあまりに保守的で、権威主義がまかり通っていて、こういった革新的な製品を受け入れるだけの許容性に欠けるようだ。

 従来、こういった高額で取引されるアート性の高い家具はビンテージ家具が殆どで、新作家具がその対象になることはなかったが、ここ数年、新作家具についてもアートピースに近い価格で取引されるようになってきた。勿論、こういった新作家具は限定で生産され、限定数に達すると、製作に必要な型さえも廃棄される。
 最近、ロンアラッドのロッキング・チェアーの新作が発売になった。
 価格は1300万から2000万円、、、勿論一台の価格だ。

 このロッキング・チェアー、、私の「サローネ・レポート」でも再三に渡って取り上げているし、昨年の東京デザイナーズ・ウィークでもオークションで一台出品されたので、憶えている人もいると思う。このオークションがいくらで落札されたのか、それとも落札されなかったのかは、その後の報道がないので知らない。でも、こういったアート家具の需要が日本に多くあるとは考えられないので、恐らく不調で終わったのではないかと推測する。もし、そうでなかったら、日本の家具マーケットも機能一辺倒から、インテリアとしての家具のマーケットが芽生え始まったのかもしれない。

 ダーウィシュというラウンヂ・ソファーがある。
 ミラノのサワヤ&モローニ社が世界限定6台で製作して話題を呼び、当時世界的なイタリアのインテリア雑誌「INTERNI」の表紙を飾った、有名な椅子だ。限定で、とても高価な椅子を製作して販売するという意図が当時は私も良く分からなかったが、新しいインテリア・マーケットへのアプローチの切り口として、かなり興味をそそられたので購入した。今から考えると、よく買ったなと思うけど、ともかく現在になってみるとアートピースとしての新作家具の原点と考える事が出来るので、購入して良かったと思っていいる。
 現在、このダーウィシュは本社の「ミュージアム」に展示してあるので、こういた家具に興味がある方は一見の価値はあると思う。ミュージアムの見学は予約制なので、事前に担当の営業を通して申し込んでください。