TITLE:キッチンは設備? それとも家具?

 
 今日の話題は珍しく「キッチン」の話題
 キッチンメーカーの社長のブログで「キッチンの話題」が珍しいというのも妙なものだが、でも今日はその稀なキッチンの話題なので、内容はちょっと固くなってしまうかもしれない。

キッチンと一口に言っても、実は大きくわけて2つの考え方があるのをご存知ですか?
 一つは、キッチンは「料理をする設備」だという考え方
 二つは、キッチンは「料理をする家具」だという考え方

 日本のキッチンの大半が前者、つまりキッチンは「設備」だという考え方で設計された製品が殆どで、市場では「住宅設備機器」というくくりでボイラー等とも同じジャンルとして捉えられています。
 市場ではよく「三点セット」という言葉があります。
 つまり、「キッチン」「洗面化粧台」「浴室ユニット」が一つのセットとして提案され、販売されているのをよく見ます。この三点でまとめて一つのメーカーで購入すれば価格もお値打ちになるらしいです。なぜこの三点が一つのセットかということですが、つまりキッチンが住宅設備機器というくくりの中で考えると、一つのまとめたセットとして提案出来るという事だと思います。でも、住宅のインテリアという視点で考えると、この三点がデザインとしての整合性を求められる事は普通はありません。
 つまり、日本ではキッチンが「設備」として捉えられる事が多く、キッチンの流通についても「住宅設備」ルートで殆ど販売されています。

でもキッチンにはもう一つの捉え方があります。それは「キッチンは料理する家具」だという考え方です。欧米ではキッチンはインテリアの一部として捉えられる事が多く、販売も家具と同じルートで流れることが多いようです。見本市についても、イタリアのキッチンの見本市「ユーロクッチーナ」は、家具の見本市である「サローネ」での併設展示として開催されてます。また、実際の販売もキッチンは家具やインテリアのルートで販売されることが多いのはご承知の通りです。
 では、トーヨーキッチンはどうでしょうか?
 トーヨーキッチンのショールームに来られたお客様が一様に、「なんか他のキッチンメーカーのショールームとは随分と雰囲気が違う」と感じられるようです。どうしてそう感じられるお客様が多いのでしょうか?
 理由は同じキッチンでも商品開発の捉え方がまるて違うという事だと思います。まず、他のキッチンメーカーはキッチンを「料理をする設備」ととい切り口から開発された商品である事が多いのですが、一方、トーヨーキッチンは「キッチンを料理をする家具」という切り口から開発されています。この捉え方の差が、ショールームに来て頂いたお客様の印象をまるで違うものにするのだと思います。
 「料理をする設備」「料理をする家具」、同じキッチンでも二つの考え方があり、その考え方の差が同じキッチンでもまったく違うタイプの商品になってしまいます。
 例えばキッチンを「設備」と考えると、料理をするという為の機能に特化すればいいという結論になり、デザインとかキッチンを取り巻くライフスタイルについてはキッチンの主な機能として考えなくてもいいという事になります。勿論、ボイラーでもデザインがいい方がいいので、設備としてのキッチンが必ずしもデザインが悪いという意味ではありません。
 では、キッチンを「料理をする家具」と考えると、料理をするという機能は当然満足させないといけないのですが、「料理をする」という機能と同じレベルで、キッチンのデザインだったり、キッチンを取り巻くライフスタイルについても機能の一つとして考えていく必要があるということになります。
 例えば、アイランド・キッチンを「料理をする設備」と捉えると、排気効率の問題であったり、収納量の問題であったり、旧来のオンウォール・タイプと比較して劣る場合が多いのは事実です。しかし、キッチンを「料理をして」「食事をする」という生活の場面を通しての、家族や友人のコミュニケーションを大切にしたいというライフスタイルを一つの機能として考えると、アイランド・キッチンは遥かに優れているキッチンだということが出来ます。

 例えばトーヨーキッチンのキッチンは全て足が付いていて、キッチンが床から浮いている構造になっています。他のキッチンメーカーはこの部分は全て収納として利用されています。キッチンが「設備」と考えた場合、収納量は多ければ多い程いいということになります。しかし、キッチンを部屋の中央に於く家具として考えた場合、床まで詰まったキャビネットは少し醜悪な感じがします。むしろ、インテリア的には部屋の中央に存在する家具は、少しデザイン的には抜けたような軽さがあった方が、他のインテリアとの整合性が格段に上がります。また衛生的なイメージからでも、底が掃除が出来ない家具が部屋の中央に存在するというのは問題だと感じます。
 トーヨーキッチンはキッチンの照明にシャンデリアを合わせてプレゼンテーションすることが多いのですが、キッチンが「設備」だと考えると、キッチンにシャンデリアを合わせるというのは論外ですが、「家具」だと考えるとシャンデリアというのは良く理解して貰えると思います。
 キッチンは果たして「料理をする設備」なのか?  それとも「料理をする家具」なのか?

 どちらも選択肢の一つで、ユーザーがキッチンをどう捉えて理解しているかによると思います。ただ、キッチンといっても「設備」と「家具」とは同じ商品ではなく、「設備」という視点で「家具」としてのキッチンを見ても意味がないし、「家具」という視点で「設備」としてのキッチンを見ても何の意味もないということだと思っています。つまり、どちらが優れているかという議論をしても何の意味もない事ですが、キッチンを語る時、往々にしてこのような議論を聞く事が多いようです。
 トーヨーキッチンの大阪ショールームの同じビルの中にINAXのショールームが入っています。隣同士なので、興味のある方は「設備」としのキッチンと、「家具」としてのキッチンがどう違うのか、見較べてみると面白いかもしれませんね。

 余談になりますが、今月号の「I`m home」という住宅・インテリア誌の162ページに私、Takao WatanabeとTOYO KITCHENが4ページにわたって特集されています。ぜひご覧下さい。

投稿者 nabe : 2008年11月21日 11:31