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【名作デザイン図鑑】空間に自由をもたらすフロアライト|フロス「アルコ|Arco」

デザインや機能性に優れ、時代を超えて愛される名作家具や照明たち。実用品を超えて芸術作品としても評価されています。

数ある名作の中から今回は、革命的なフロアライト「アルコ」をご紹介します。

アルコ|Arco
デザイン:アキッレ&ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ|Achille & Pier Giacomo Castiglioni|イタリア
製造:フロス|Flos|イタリア
1962年|照明・フロアライト

1962年、天井から解放された光の軌跡


1962年に誕生したアルコは、アキッレとピエール・ジャコモのカスティリオーニ兄弟がフロスのために設計した革命的なフロアライトです。街灯からインスピレーションを得た大胆なアーチ形状と、重厚な大理石ベースが織りなす造形美。天井に穴を開けずにペンダントライトの機能を実現するという明確な目的が、半世紀を超えて愛され続ける名作を生み出しました。ジェームズ・ボンド映画『007 ダイヤモンドは永遠に』から『アイアンマン』まで、数々の映画に登場し、豊かなライフスタイルを象徴する存在となったこの照明。その誕生には、戦後イタリアデザイン界の知的探求と遊び心が凝縮されています。

INDEX

  1. 街灯が室内に宿る日|デザイン誕生の背景
  2. レディメイドの精神|工業製品と芸術の交差点
  3. 機能美を支える構造|計算された寸法と素材
  4. スクリーンに輝く存在|映画が愛したアルコ
  5. 空間を彩る佇まい|インテリアコーディネート
  6. 時代を超える価値|継承される照明文化
  7. まとめ
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1.街灯が室内に宿る日|デザイン誕生の背景

Ph. gionata xerra

1960年代初頭、社会変革の時代において、流動的で適応可能な生活空間への移行が進んでいました。アルコは、固定された電気配線の制約から解放された自立型ソリューションとして、まさに完璧な答えでした。天井に穴を開けることなくテーブル上に光を届けるペンダントライトの機能。カスティリオーニ兄弟は街灯からインスピレーションを受け、この課題に挑みました。

アキッレの娘ジョヴァンナは、アメリカン・エキスプレス社のインタビューで、父と叔父がパリの歩道に立つ街灯からアルコの着想を得たと明かしています。ベースから光源までの距離は約220cm。ダイニングテーブルの中央に光源が来るよう設置した際、椅子の後ろを人が一人通れる絶妙なバランスを実現した寸法です。この計算は、空間の機能性と美的調和を両立させる緻密な設計思想の結晶でした。

アキッレ・カスティリオーニは1918年、兄ピエール・ジャコモは1913年にミラノに生まれ、共にミラノ工科大学で建築を学びました。戦後イタリアの復興期、彼らは伝統的な手工芸から近代的な工業デザインへと移行する時代を生きました。アキッレとピエール・ジャコモは戦後に生まれたイタリアデザイン運動のアヴァンギャルドを代表し、木材とアルミニウムなど異なる素材を組み合わせた実験的な作品を次々と発表していきました。

2.レディメイドの精神|工業製品と芸術の交差点

Ph. gionata xerra

アルコのプロジェクトは、1960年代に発展したレディメイドと呼ばれる潮流の一部です。レディメイドは、芸術の形式や美的価値を問い直す「知的な挑発」で、既存の家具を皮肉を込めて更新・再解釈しようとしました。 この思想は、マルセル・デュシャンが開拓した芸術運動に根ざしています。

デュシャンは、芸術家の選択によって日常的な物体が芸術作品の尊厳へと高められると主張しました。カスティリオーニ兄弟も同様のアプローチで、すでに市場にある製品を使いたいと考え、曲げ鋼材のセクションが非常にうまく機能することを発見しました。自転車のサドルを座面にした「セラ」チェアや、トラクターの座席を転用した「メッツァドロ」チェアと同じ文脈で、アルコは工業製品の美学を室内空間へ移植する試みでした。

アキッレは生前、「すべてを真剣に受け止めるプロフェッショナルな病」を嘆き、常に冗談を言うことが自分の秘訣の一つだと宣言していました。 この遊び心こそが、カスティリオーニ作品を貫く精神であり、機能と詩情を融合させる原動力でした。

3. 機能美を支える構造|計算された寸法と素材

50kgを超える重量を持つカッラーラ産大理石のベースは、クローム仕上げのボール型シェードと長く湾曲したスチールアームを支えています。「次に対重の問題がありました。すべてを支える重い質量が必要でした。最初はセメントを考えましたが、その後大理石を選びました。同じ重量でより小さいサイズが可能になり、より高い仕上げにもかかわらず、より低いコストになったからです」とアキッレは語っています。

トスカーナ北部で採掘されるカッラーラ大理石は、イタリアデザイン史と密接に結びついています。アルコの超現代的なデザインの一部として、この素材は何世紀もの伝統に敬意を表しながら、そのミニマリストな形態で大胆に型を破っています。

ベース中央の穴は装飾ではなく、ほうきの柄などを通して二人で持ち上げ、移動させるための実用的な工夫です。大理石ベースの角は意図的に面取りされており、ユーザーがランプにぶつかった場合の怪我の可能性を最小限に抑えるよう設計されています。このような細部への配慮が、カスティリオーニ兄弟の思慮深さを物語ります。

アーチは3つの湾曲したスチールセクションで構成され、電気ケーブルの通路としても機能します。ベースから半球形のランプホルダーまで、2メートルの距離にわたってケーブルを導きます。シェードは2重構造になっており、向きを自由にコントロールできます。シェード上部の放熱用の穴は機能的な役割だけでなく、天井方向へ光を拡散させるための構造です。すべての要素が機能的必然性を持ち、無駄のない設計思想を体現しています。

4. スクリーンに輝く存在|映画が愛したアルコ


1971年の映画『007 ダイヤモンドは永遠に』では、ショーン・コネリー演じるジェームズ・ボンドが、悪役ブロフェルドのペントハウスアパートメントで2台の印象的なアルコフロアライトを背景に対峙します。 アルコは2002年の『007 ダイ・アナザー・デイ』でも、ロス・オルガノス島のアルバレス医師のオフィスに登場し、ボンド映画の洗練された美学を象徴する小道具として定着しました。

アルコは『アイアンマン』でトニー・スタークのラグジュアリーな邸宅に、またビートルズの映画『ヘルプ!』のポールのゾーン、『トロン:レガシー』、『メン・イン・ブラック』『トランスフォーマー3』など、枚挙にいとまがありません。

アルコは、これらの映画やそれ以上の作品において都会的な豊かさの象徴として機能しています。銀色のアーチ、球体のようなシェード、エレガントな大理石ベース。その独特のシルエットは、映画界において洗練されたライフスタイルと知的な美学の視覚的記号となったのです。

5. 空間を彩る佇まい|インテリアコーディネート

Ph. gionata xerra

モダンなダイニング空間では、テーブルの端に大理石ベースを配置し、アーチをテーブル中央へ伸ばす配置が最も効果的です。ウォルナット材の天板とレザーダイニングチェアを組み合わせれば、アルコのメタリックな輝きが洗練されたコントラストを生み出します。天井照明を抑え、アルコの直下照明で食卓を演出することで、レストランのような上質な雰囲気が実現します。

リビングでは、L字型ソファの角に設置し、読書スペースを演出する使い方も魅力的です。アーチの調整可能な高さにより、床から最大約241cmまで光を投影できます。重いベースはランプを固定するだけでなく、小さくて魅力的なサイドテーブルとしても機能します。大理石の白とファブリックソファの温かみが調和し、北欧スタイルとイタリアンデザインの融合を楽しめるでしょう。

書斎やホームオフィスでは、デスクの横に配置し、執筆や作業スペースを照らす実用的な使い方も可能です。コンクリート壁や金属製の家具と組み合わせれば、インダストリアルスタイルの空間に知的な温かみを加えられます。アルコのシェードは二重構造で、外側を回転させることで光の方向を調整できるため、用途に応じた柔軟な照明計画が可能です。

6. 時代を超える価値|継承される照明文化

Ph. gionata xerra

2011年、アルコはその象徴的なデザインが認められ、著作権保護を受けました。照明として初めてこの栄誉に浴したアルコは、おそらく歴史上最も有名なランプとなり、長年にわたってデザインアイコンとなり、芸術作品とみなされるようになりました。

現在、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ミラノ・トリエンナーレ美術館、ポンピドゥー・センター(フランス)をはじめ、世界の主要美術館の永久コレクションに収蔵されています。産業製品でありながら芸術作品として評価される稀有な存在。それは、デザインが持つ文化的価値を証明する象徴でもあります。

1962年から1982年の間に、このコレクションの40,000台以上のランプが日本を含む世界中で販売されました。2012年には誕生50周年を記念してLED版がリリースされ、50年間のフロスの歴史とも重なりました。さらに2022年には誕生60周年を記念し、大理石の代わりに無鉛クリスタルガラスを使用した限定版「アルコ K」が登場。伝統を守りながら進化する姿勢は、真の名作だけが持ち得る時間軸を示しています。

2002年に亡くなる前、アキッレは多くの芸術家やデザイナーから最も重要なイタリアの建築家の一人として認められていました。彼の作品は、ダダイズムに例えられることもあれば、初期のポストモダニストと位置付けられることもあります。ユーモアを見るか、優れたデザインの誠実さを見るか。あるいはその両方を見るか。アキッレの創造物は芸術とデザインの世界において、生き続けているのです。

7.まとめ


アルコは、天井という制約から照明を解放し、空間に新たな自由をもたらしました。街灯という日常の風景から着想を得て、機能と美を高次元で統合したカスティリオーニ兄弟の設計思想。約65kgの大理石ベースが支える優美なアーチは、重力と軽やかさの対話であり、物質と光の詩でもあります。

レディメイドの精神を受け継ぎ、工業製品と芸術の境界を曖昧にしたこの照明は、映画の中では豊かなライフスタイルを象徴し、実生活ではダイニング、リビング、書斎と、あらゆる空間に上質な光をもたらします。半世紀を超えて世界中の美術館に収蔵され、今なお新しい空間を照らし続けるアルコ。それは単なる照明器具ではなく、イタリアデザインの精神が宿る文化的遺産として、私たちの生活に静かな輝きを添え続けているのです。

パリの街灯が室内に宿った日から60年以上。アルコは時代を超え、国境を越え、照明という実用品が持ち得る最高の詩情を、今日も灯し続けています。

アワード受賞歴


1962年 コンパッソ・ドーロ賞受賞
2011年 著作権保護認定(照明として初)

アルコ

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デザイナープロフィール

アキッレ・カスティリオーニ(Achille Castiglioni / 1918-2002)


1918年ミラノ生まれ。ミラノ工科大学建築学科卒業後、1944年に兄リビオとピエール・ジャコモの建築事務所に参画。1962年のフロス設立時にはデザイン部門責任者として招聘され、イタリア工業デザイン協会(ADI)の創設メンバーの一人となりました。

コンパッソ・ドーロ賞を9回受賞し、カルテル、フロス、ザノッタ、ノール、アレッシなど多数の企業のために家具、照明、オブジェをデザイン。革新的工業デザインの先駆者として近代デザイン界に多大な影響を与えました。「すべてを真剣に受け止めすぎるプロフェッショナルな病」を嘆き、常に冗談を言い続けることを信条とした彼の遊び心は、機能と美学を融合させた数々の傑作に息づいています。

ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ(Pier Giacomo Castiglioni / 1913-1968)


1913年ミラノ生まれ。ミラノ工科大学建築学科卒業後、1938年に兄リビオと建築事務所を設立。1940年代以降、毎回ミラノ・トリエンナーレに出展し、コンパッソ・ドーロ賞を6回受賞しました。

弟アキッレとの協働により、木材とアルミニウムなど異なる素材を大胆に組み合わせた実験的作品を発表。機能性と美学を融合させた数々の照明デザインを生み出し、20世紀イタリアデザインの礎を築きました。1968年に逝去するまで、戦後イタリアデザイン運動のアヴァンギャルドを代表する存在として活躍しました。

これまでの「名作デザイン図鑑」はこちら。

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