デザインや機能性に優れ、時代を超えて愛される名作家具や照明たち。実用品を超えて芸術作品としても評価されています。
数ある名作の中から今回は、ラディカルデザインの象徴「ボッカ|Bocca」をご紹介します。
デザイン:スタジオ65|Studio 65|イタリア・トリノ
製造:グフラム|Gufram|イタリア・トリノ
1970年|ソファ
真紅の唇が横たわる。サルバドール・ダリへのオマージュとして誕生したボッカは、スタジオ65のデザインとグフラムの革新的な製造技術が融合した傑作です。外見の官能性の裏側には、消費社会への批評と伝統への反逆が潜んでいます。
1960年代末のイタリアで、デザイン界に革命が起きていました。フィレンツェを中心に展開されたラディカルデザイン運動は、合理主義やモダニズムへの反抗として、前衛的な表現を追求しました。トリノを拠点とするスタジオ65も、1965年に建築学生たちによって結成され、この潮流に加わります。
ボッカソファは、ミラノのフィットネスセンター「コントゥレーラ」の内装プロジェクトとして構想されました。グフラム社の工場で赤い光沢のあるラテックスゴムでコーティングされた試作品が、偶然訪れた『カーサ・ヴォーグ』誌の編集者の目に留まり、1970年11月に掲載されると、デザイン界のアイコンとなりました。「外見が存在の質よりも優先される時代の象徴」とデザイナー自身が語るように、ボッカは表層的な美への皮肉と賛美を同時に表現しています。
ボッカの実現には、グフラムの技術革新が不可欠でした。1952年にトリノ近郊で創業したグフラムは、当初は伝統的な木製家具メーカーでしたが、1960年代に入ると新素材への挑戦を開始します。冷発泡ポリウレタンフォームという革新的素材を採用し、木枠や金属フレームに依存しない自由な造形を可能にしたのです。
この技術により、微妙に非対称な唇の複雑な三次元曲面が精巧に再現されました。熟練職人による手作業で成形され、赤い伸縮性ファブリックで覆われた表面は、視覚的な官能性と実際の座り心地を両立させています。全長約210cm、奥行80cm、高さ82cmという寸法は、2~4人が腰掛けるのに十分なサイズです。
グフラムは、ボッカ以外にも巨大な草の葉で構成された座面「プラトーネ」、サボテン型の衣装掛け「カクタス」など、ラディカルデザインの名作を次々と世に送り出しました。1986年には限定1000個のボッカエディションを製作し、各作品に製造番号を刻印。現在では赤のオリジナルに加え、ピンクの「ピンクレディ」、黒の「ダークレディ」、50周年記念の金色「ボッカドーロ」を展開しています。
ボッカの造形的ルーツは、サルバドール・ダリが1934-35年に制作した『シュルレアリスムのアパルトマンとして使用できるメイ・ウエストの顔』にあります。ダリはハリウッド女優メイ・ウエストの唇に着想を得て、英国のパトロン、エドワード・ジェームズと共に実際の唇ソファを制作しました。
スタジオ65は、このダリの作品に敬意を表しながらも、1960年代のポップアート文化と結びつけることで独自の解釈を加えました。当初「マリリン」と名付けられたこのソファは、その後「ボッカ(口)」という直接的な名称で世界に知られるようになります。ダリのシュルレアリスムが貴族階級の閉ざされた空間に置かれたのに対し、ボッカはより広い社会的文脈を持つ作品となったのです。
ボッカは単なる家具を超え、20世紀デザイン史の重要な文化遺産として認識されています。ヴィトラ・デザイン・ミュージアム、ポンピドゥー・センター、ルイ・ヴィトン財団美術館、ロンドン・デザインミュージアム、ミラノ・トリエンナーレなど、世界の主要美術館の永久コレクションに収蔵されています。
2012年の「ポップアート・デザイン」展、2019年の「シュルレアリスムとデザイン」展、2023年の「すべてを同時に:ポストモダニズム1967-1992」展など、数多くの国際展覧会で展示されてきました。写真家リチャード・アヴェドン、デヴィッド・ラシャペル、ランキンらの作品にも登場し、視覚文化における影響力を示しています。
現代のインテリアにおいて、ボッカは強烈な個性を放つステートメントピースとして機能します。ミニマリスティックな白い空間に配置すれば鮮烈なフォーカルポイントとなり、クラシカルな空間では過去と現在の対話を生み出します。コレクターにとっては投資価値のあるアート作品であり、限定エディションは希少性が高く評価されています。
ボッカソファは、スタジオ65の創造性とグフラムの技術革新が結実した、イタリアンラディカルデザインの象徴です。1970年の誕生以来、外見の美しさへの偏重を皮肉ると同時に賛美し、権威への反抗と遊び心を兼ね備えたこの作品は、半世紀以上を経た今もなお、デザインの境界を問い続けています。イタリアから生まれたこの赤い唇は、世界中の美術館に収蔵され、次世代へと語り継がれていく造形の記憶として刻まれているのです。
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