デザインや機能性に優れ、時代を超えて愛される名作家具や照明。その背景には、独自の感性と哲学を持つデザイナーたちの存在があります。
今回は、大胆な色使いとユーモアあふれるデザインで、モダンラグジュアリーを表現する世界的デザイナー「Jonathan Adler|ジョナサン・アドラー」をご紹介します。
「陽気で遊び心のある人だと思われている。
でも実際は、真面目な人間で、ミニマリストだ。」
INDEX
アドラーは、アメリカ・ニュージャージー州の町で生まれました。父は弁護士でしたが、趣味で陶芸に打ち込む人物でした。地下室で制作する父の姿を、幼い頃から間近に見て育ちます。
12歳のとき、サマーキャンプでろくろに出会いました。まもなく両親からろくろと窯を譲り受け、10代の大半を作陶に費やします。
進学先の大学では記号論と美術史を専攻しました。実際に多くの時間を費やしたのは、近隣の造形大学での陶芸クラスでした。当時のアドラーの作品は色彩豊かで遊び心にあふれ、伝統的な陶芸の評価軸とは一線を画すものでした。周囲の評価にとらわれず、自身の作風を貫いた姿勢は、のちの独自のスタイル確立につながっていきます。
卒業後はニューヨークに移り、映画・エンターテインメント業界で数年働きました。その後、陶芸家としての活動に専念する決意を固めます。
20代終盤で本格的に陶芸に向き合い直し、夜間クラスで教える対価としてスタジオの使用時間を得るという形で制作を再開しました。ここでの作品が高級百貨店の目に留まり、発注につながります。
転機となったのは、非営利団体を通じた南米の職人との協業です。一人で担っていた生産の限界を超え、家具やテキスタイルなど、陶芸以外の分野へも表現を広げる契機となりました。その後ニューヨークに直営店を開き、事業は家具・インテリア全般へと拡大します。
以後、ホテルの内装デザイン、著書の執筆へと活動は広がりました。2025年から2026年にかけては、ニューヨークの美術工芸博物館(MAD)で、アドラー自身が初めて企画を手がける大規模な展覧会が開催されています。同館の常設収蔵品60点以上と、自身の代表作を並べて展示する内容でした。
陶芸家としての原点への愛着は、家具やインテリア全体の作品づくりにも息づいています。素材への丁寧な向き合い方は、規模が広がった現在も一貫しています。
アドラーのブランドが掲げる声明には、次の一節があります。
「ミニマリズムは残念なものだと私たちは考える」
ここで注意したいのは、この言葉がしばしば文脈から切り取られて紹介される点です。原文が語るのは、装飾の排除自体を目的化する姿勢への異議であり、ミニマリズムそのものへの単純な批判ではありません。
実際、本人は別のインタビューで「自分はミニマリストだ」とも語っています。削ぎ落とされた造形と、装飾による喜びの両立こそが、アドラーの一貫した姿勢だと考えられます。
シナゴーグ建築
これらの作品を貫くのは、単一の作品だけでは見えてこない、素材への一貫した敬意と、幾何学的な構造美、そして遊び心の組み合わせです。
アドラーは、自身のデザイン哲学を「モダン・アメリカン・グラマーとエキセントリシズム」だと語っています。「誰もが、暮らしのあらゆる場面にひとさじのグラマーを持つに値する」という考え方が、その根底にあります。
インスピレーション源として、アドラーは中期モダンデザインの作り手アレクサンダー・ジラードの名を繰り返し挙げています。ジラードのデザインについて「パーソナルでありながら、同時にシックである」点を高く評価していると、複数のインタビューで語っています。この「個人的な温度感と洗練さの両立」という評価軸は、アドラー自身の作品づくりにも通じる姿勢だといえます。
この哲学は住宅にとどまらず、ホテルという公共性の高い空間にも展開されています。次の章で、具体的な事例を紹介します。
アドラーが住宅以外の空間デザインに携わった代表例が、アメリカ西海岸パームスプリングスにあるホテルです。この建物は1959年に建てられ、カリフォルニア州初のホリデイ・インとして開業しました。その後、俳優兼歌手が所有した時期や、テレビ司会者マーヴ・グリフィンが手がけたリゾートホテル兼スパとして運営された時期を経ています。
アドラーは2004年、開業にあたってこのホテルの内装デザインを初めて手がけました。全144室、敷地面積約13エーカーの空間に、鮮やかな色彩と多様なテクスチャーを組み合わせています。
2017年には、大規模な改装を再び手がけました。エントランスには、高さ約7mのブリーズブロック製の装飾スクリーンを設置しています。この改装で加えられた要素のひとつが、高さ約2.1m、重量約410kgのブロンズ製バナナの彫刻です。アドラー自身にとって初めての公共彫刻作品であり、本人が「敷地内で最も気に入っているデザイン要素」と語る作品でもあります。
改装にあたってアドラーは、建物が持つ1950年代のミッドセンチュリー建築としての歴史的な佇まいを尊重しながら、現代的な要素を加えることを重視したと述べています。「贅沢さは、近寄りがたいものである必要はない」という趣旨の発言をしており、宿泊客が滞在中に迷わず快適に過ごせることを大切にしている点がうかがえます。
住宅の内装で培った、色彩と素材への一貫した姿勢を、より大きな公共空間でも一貫して展開している事例だといえます。
ジョナサン・アドラー|Jonathan Adlerは、陶芸という手仕事への一貫したこだわりから出発し、独自の様式を確立した人物です。幾何学モチーフや真鍮素材への探究心、動物モチーフに宿るユーモアは、いずれも陶芸家としての原点から続く一貫した美意識に基づいています。住宅からホテルまで一貫する「モダン・アメリカン・グラマー」というスタイルも、この美意識の延長線上にあります。
華やかな色彩や遊び心のある造形の奥には、素材と手仕事への長年の敬意が流れています。作品を手に取るとき、その奥にある原点を思い出すと、また違った見え方がしてくるのではないでしょうか。
アメリカ合衆国ニュージャージー州出身の陶芸家、インテリアデザイナー、著者。ブラウン大学で記号論と美術史を学ぶかたわら、ロードアイランド造形大学で陶芸を学びました。1993年に陶芸家として本格的に活動を開始し、その後、家具・インテリア全般を手がける自身のブランドを設立します。現在はブランドの最高クリエイティブ責任者を務め、住宅やホテルのインテリアデザイン、著書の執筆に加えて、2025年からはニューヨークの美術工芸博物館(MAD)で自身初となる展覧会の企画も手がけています。
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