期間2023年9月18日まで ショールーム来館予約キャンペーン WEBで来館予約頂いた方へご来館時に先着でプレゼントを差し上げます

【名作デザイン図鑑】美しさとは変化か、永続か。スモークチェアが問うもの

デザインや機能性に優れ、時代を超えて愛される名作家具や照明たち。実用品を超えて芸術作品としても評価されています。
数ある名作の中から今回は「スモークチェア|Smoke Chair」をご紹介します。

スモークチェア|Smoke Chair


デザイン:マーティン・バース|Maarten Baas|オランダ
製造:モーイ|moooi|オランダ
2002年|アームチェア

スモークチェア|Smoke Chair


炎に刻まれた哲学。プロダクトとアートのはざまに立つ椅子


名作チェアが炎に包まれる光景は、単なる破壊ではありません。
変化する自然の美と、変化を止めようとする人間の欲求。
スモークチェアは、その二つの美学的問いを一脚に凝縮した、プロダクトとアートのはざまに立つ椅子です。

INDEX

  1. 卒業制作という炎——スモークの誕生
  2. 「美しさ」への哲学的問い
  3. 炎とエポキシ樹脂。製造プロセスの詩情
  4. プロダクトとアートのはざまで
もっと見る

1|卒業制作という炎——スモークの誕生

スモークチェア|Smoke Chair

舞台は2002年6月、オランダのアイントホーフェン・デザインアカデミー。

マーティン・バース|Maarten Baasは卒業制作のため、古着市場やオンラインで調達したアンティーク家具にバーナーを当て始めました。

バロック様式の椅子が炎に包まれていく光景は、ショッキングであると同時に、どこか静けさをはらんでいます。燃え尽きる寸前の木材をクリアなエポキシ樹脂でコーティングし、構造を回復させます。

こうして生まれたのが「スモーク」シリーズです。

焦げた木の美しさを永久に封じ込めた、プロダクトでありアートでもある一連の作品といえます。
翌2003年、モーイ|moooiはこのシリーズを製品として採用しました。
ミラノサローネで世界に初披露され、デザイン界に鮮烈な印象を刻んでいます。

2|「美しさ」への哲学的問い

スモークチェア|Smoke Chair

スモークチェア|Smoke Chair

スモークチェアの核心は、その外観よりも、バースが投じた問い自体にあります。


「自然界では万物が時の流れとともに姿を変え、その時々で美しさを生み出します。
物事の美しい状態をそのまま保つのは非常に人間的な行為です。
スモークシリーズはその両方の美しさを新たに吹き込んだ作品です。」

— マーティン・バース

デザインとは本来、完璧を追求する行為とされてきました。しかしバースは「完璧さとは何か」と問います。
自然は変化の中に美を見出し、人間は変化を抑制することに美を見出します。
スモークはその二律背反を、一脚の椅子という形で体現しています。

3|炎とエポキシ樹脂。製造プロセスの詩情

炎とエポキシ樹脂。製造プロセスの詩情

製造工程は、明快でありながら詩情を帯びています。


  • 工程1: まず、木製フレームのアームチェアを実際に燃やします。
    炎の勢い、当て方、素材の乾燥状態により、焦げのパターンは毎回異なります。

  • 工程2: 完全に冷却後、クリアなエポキシ樹脂でコーティングします。
    高強度のエポキシが木材を封じ込め、日常使用に耐える強度と光沢を付与します。

  • 工程3:ブラックレザー(牛革)で張り上げて完成です。
    炭の表情と革のつやが、独特の高級感を生み出しています。

一脚ずつ燃え方が異なるため、同一の仕上がりは存在しません。欠け、炭化の濃淡、微妙な色むら。
それがそのまま、その一脚のアイデンティティになります。

これは製造の副産物ではなく、このプロダクトの本質的な設計思想です。

4|プロダクトとアートのはざまで

マッキントッシュのラダーバックチェア

マッキントッシュのラダーバックチェア

マッキントッシュのラダーバックチェア

マッキントッシュのラダーバックチェア

エットーレ・ソットサスのカールトン

エットーレ・ソットサスのカールトン

エットーレ・ソットサスのカールトン

エットーレ・ソットサスのカールトン

リートフェルトのジグザグチェア
リートフェルトのジグザグチェア


スモークは、単なるプロダクトにとどまりません。

2004年、ニューヨークのMossギャラリーでの個展「Where There's Smoke」では、バースはリートフェルト、ガウディ、イームズ、ソットサスらのデザインクラシック約50点を燃やした作品を展示しました。

リートフェルトの「ジグザグチェア」は、25脚限定のエディションとして制作されています。

名作チェアが炎に包まれる光景。それはデザイン史への敬意であり、同時に挑戦でもあります。

この展覧会によりスモークは、プロダクトとアートの境界線を越え、現代デザイン史に固有の座標を占めることになりました。

ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)、グローニンゲン博物館(オランダ)、モントリオール美術館(カナダ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)など、世界の主要美術館が永久コレクションとして所蔵しているのは、その証左といえるでしょう。

まとめ

スモークチェア|Smoke Chair

スモークチェアは、マーティン・バースが2002年の卒業制作を原点とする、モーイの代表的プロダクトです。

木製フレームを実際に燃やし、クリアなエポキシ樹脂でコーティングして機能を回復させる独自の製法により、一脚ずつ異なる表情を持つ一点物として完成します。

「自然の変容する美」と「人間が保存しようとする美」。その二つの問いを一脚に凝縮し、プロダクトとアートの境界に存在し続ける椅子です。

2003年のミラノサローネでデビューして以来、世界の主要美術館が所蔵するコレクターズピースとして、また日常空間に置かれる機能家具として、二つの顔を持ち続けています。

炎に刻まれた時間と哲学を生活の場に招き入れること。それがスモークチェアの、他に代えがたい価値です。

所蔵されている美術館・博物館

スモークシリーズは以下の美術館・博物館の永久コレクションとして所蔵されています。
  • ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A / ロンドン、イギリス)

  • グローニンゲン博物館(Groninger Museum / フローニンゲン、オランダ)

  • モントリオール美術館(Montreal Museum of Fine Arts / カナダ)

  • メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art / ニューヨーク、アメリカ)

マーティン・バース|Maarten Baas

デザイナー・プロフィール


マーティン・バース|Maarten Baas


1978年、ドイツ生まれ、オランダ育ち。
2002年、アイントホーフェン・デザインアカデミー卒業。

卒業制作「スモーク」シリーズがモーイに採用され、翌2003年のミラノサローネでデビューを果たします。以降、クレイシリーズ(2006年)、リアルタイムシリーズ(2009年)など、デザインとアートの境界を探求する作品を発表し続けています。

ルイ・ヴィトン、エルメスなどのブランドとのコラボレーションも手がけており、現在もオランダを拠点に活動中です。

これまでの「名作デザイン図鑑」はこちら。

Back Number

トーヨーキッチンスタイル が提案する、照明や家具など生活を彩るインテリアアイテム。オンラインショップはこちら。

関連記事

【名作デザイン図鑑】「なぜカールトンは美術館に所蔵されるのか。メンフィスの思想と遺産」
INTERIOR 26.04.17(Fri)

【名作デザイン図鑑】「なぜカールトンは美術館に所蔵されるのか。メンフィスの思想と遺産」

【名作デザイン図鑑】壁を越えた先に咲いた花|モーイ照明「ヘラクレウム」誕生の物語
TREND 26.03.23(Mon)

【名作デザイン図鑑】壁を越えた先に咲いた花|モーイ照明「ヘラクレウム」誕生の物語

【名作デザイン図鑑】ダリから受け継いだ唇のソファ「ボッカ」
TREND 26.02.17(Tue)

【名作デザイン図鑑】ダリから受け継いだ唇のソファ「ボッカ」

【名作デザイン図鑑】実物大の動物が家具になる理由|ホースランプ|アニマルシングス
TREND 26.01.09(Fri)

【名作デザイン図鑑】実物大の動物が家具になる理由|ホースランプ|アニマルシングス

全ての記事を見る
ショールーム

SHOWROOM

ショールームのご予約はこちら

間取りやご予算、くわしくご相談されたいお客様には、ご来館予約をおすすめしています。インテリアだけふらっとご覧になりたいなど、ご予約なしでもお気軽にお立ち寄りください。

メールニュースの
ご登録はこちら

インテリアのトレンド、海外ブランドの最新コレクションやショールームのイベント情報が
届くメールニュース、特別イベントへの応募など特典が満載。