TITLE:「ベニスに死す」・・訳ではない。

 ベニスと言うとまず思い出すのは名匠ルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」。死期が迫りくる初老の紳士がベニスで出会った少年に恋をするというストーリーなのはご存知の通り。この映画の耽美的な「美」の描写は、ベニスという街があって始めて成り立つのだと思う。
 ちょっとマニアックなので、誰にもお奨めする訳ではないが、ベニスという街の雰囲気を堪らなく描写してくれているので、ベニスに行かなくても、この映画を見ればもうほぼ満足かもしれない・・ (ちょっと褒め過ぎだけど、でも好きな映画の一つです)
  と、、、いうことで、ベニスで死ぬ訳ではないけど、パリから一路ベニスに飛んだ。

 今回のベニス訪問は市内ではなく、ベニス郊外の工場を廻るのが目的なので、宿も移動に便利な郊外、ベニス市内から車で20分ぐらいの場所に宿を取った。でも、せっかく来たので、仕事の合間をみてベニス市内に出かけてみた。
 いざ、、ベニスへ・・

 ベニスに行くと驚くのは、こんな街が、この現代にそのままよく残っているものだということだ。最初に訪れた時は、まさに現代の奇跡かと思った。ベニスはもともと遠浅の海の中に、アルプスから切り出した樫の木を打ち込んで、それを基礎として、その上に建物を作り、残った所が水路になったという街なので、正確には水路ではなく、建物の間に残った海とも言える。樫の木の基礎だけなので、ベニスの建物は常に沈下していて、床は大きくうねっているのが常だそうだ。

 日本だったら、沈下している建物なんて言語道断で、耐震基準も何も、それ以前に取り壊されてしまうと思う。でも、ベニスは、昔の建物が、昔のままでそのまま残っていて、その中に実際に人が暮らしている。日本だったら考えられない。

 余談になるけど、伊勢志摩の賢島にある志摩観光ホテル、レストラン「ラメール」でも有名だが、実はこの建物、村野藤吾の名作なのだけど、耐震基準に満たないという理由で一部取り壊されるそうだ。私の最も好きなホテルだけに、こんな名建築が取り壊されるのは本当に残念です。なんか、ベニスに来て、村野藤吾を思い出してしまった。

 昼間のベニスは観光客の喧噪に包まれているが、たそがれ時になると徐々に人も減ってきて、ベニスは昼間と違った別の顔を見せ始める。日が落ちる毎に、刻々と顔を変えて行くベニスの街、、、 もう、「美しい」という月並みな言葉しか見つからない。

 街には灯りが少しずつ灯り始めると、建物の色さえ、微妙に変化してくる。水面に映り込む光が誘うように揺れている。

 そして、夜のとばりがベニスの街を支配する。
 街角から人の影は消え失せ、観光地としてのベニスの顔はなくなり、そこにたたずむ者の想いを遥か中世に馳せてくれる。

 家々のべネチィアン・グラスのシャンデリアに灯がともるり始め、ベニスはやがて暗闇の中に消える

 まさに、「ベニスに死す」